2012年11月7日水曜日

火山予知連・富士山ハザードマップ検討委員会・問題点・想定_貞観噴火・宝永噴火・火山灰の方向設定_東海・東南海・南海地震_防災アドバイザー山村武彦氏

●週プレNEWS  2012年11月6日
今の「富士山ハザードマップ」は想定が甘すぎる?
http://wpb.shueisha.co.jp/2012/11/06/15181/
2000年から翌年にかけて、富士山直下のマグマ溜まりでは噴火活動の再開を示す「低周波地震」が激増した。そのため気象庁は2001年5月に「火山噴火予知連絡会」を緊急招集し、富士山噴火の際に山麓周辺で予想される災害規模を地図化する「ハザードマップ」の作成に着手した。
そして2004年に火山予知連・富士山ハザードマップ検討委員会が発表したのが「富士山ハザードマップ」と報告書だった。その中には、大噴火の際に山麓周辺の市町村を襲う「火山噴出物(噴石、火山れき、火山灰)」「火砕流高温ガス」「土石流」のシミュレーションのほかに、東京・千葉、埼玉、神奈川の首都圏へ飛散する火山灰の範囲と、降下量を予想したハザードマップも存在する。
その最大降灰量は、神奈川県で30cm、東京・千葉(主に房総半島全域)で10cm。この量の火山灰が現実に首都圏へ降下した場合の被害想定規模は、これまでに新聞やテレビでも報道されてきた。だが、書籍『富士山の噴火は始まっている!』の共著者である防災アドバイザー・山村武彦氏は、このハザードマップには問題点も多いと指摘し、次のような批判意見を書いている。

《大災害が起きてから「想定外でした」と、言い訳しないで済むようなハザードマップやマニュアルが必要なのだ。そのような視点で富士山ハザードマップを考えると問題点が多い。やはり、前提条件に疑問があるのだ》

それでは、この富士山ハザードマップの問題点とは具体的になんなのか。
「まず問題視すべきは、検討委員会の報告書発表後に、864年の貞観噴火が非常に大きな噴火だとわかってきたこと。宝永噴火の噴出物がマグマ量換算で約7億トンなのに対して、貞観噴火は倍量の約14億トンと推定され、しかも火山灰噴出中心の宝永噴火と違い、貞観噴火では多くの方角へ溶岩が流れ出たと推定されています。この点には学者の中からも貞観噴火を前提にマップを作るべきだとの声も上がったけれど、検討委員会が平安時代の貞観噴火をデータ不足として考慮しなかった。これは東電が福島第一原発の設計段階で貞観地震を対象外にしたのと、まったく同じ図式です」(山村氏)

ちなみに、昨年の東日本大震災は、この貞観大地震と同じ震源だった。山村氏が続ける。
「われわれはせめて最悪14億トンの噴出物に備えるべきで、さらに富士山だけではなく、推定30億トンの噴出物が1914年に出た桜島大噴火など、ほかの火山も参考にすべきです。富士山でも、そうした巨大規模の噴火が起きないという保証はないのです」

ハザードマップでは火山灰の最大降灰量も予測している。神奈川県で30cm、東京・千葉(主に房総半島全域)で10cmだが、その方向設定にも問題がある。
「報告書では宝永噴火を基準に降灰方向を想定し、『上空に偏西風が吹き、火山灰は東に向かう』としていますが、富士山周辺の気象データでは、確かに冬には強い偏西風が吹いても、夏は必ずしも風が東へ向くわけではない。実際、宝永噴火でも東だけでなく西の長野県下伊那に灰が飛散した事実が、旧家の記録にも残っています」(山村氏)

これ以外にも山村氏は、東海・東南海・南海地震などの巨大地震と富士山噴火が高い確率で連動してきた歴史的事実を重視する。ハザードマップの作成にあたっては、そうした巨大地震と火山噴火の「複合災害」も考慮すべきだというのも、もっともな主張だと言えるだろう。
(取材・文/本誌“富士山を調べ続けて30年”取材班 写真/五十嵐和博)