2012年7月21日土曜日

木村政昭著「富士山の噴火は始まっている!」について

●不二草紙 本日のおススメ
正直呆れます…木村政昭著「富士山の噴火は始まっている!」のウソとこじつけ
http://fuji-san.txt-nifty.com/osusume/2012/07/post-2.html
 今日の「教科書にのせたい!」に琉球大の木村政昭さんが出ていました。富士山の噴火の兆候を野口健さんと一緒に紹介していましたが、私のような富士山人からすると申し訳ないけれども噴飯モノのレベルでした。
 まあ、民放のバラエティーですから別にいいと言えばいいのですが、大震災以降富士山に特別な変化があったかのように都合のよい事例のみピックアップして報告するのはどうかと思います。
 ちなみに昨年の赤池の出現は地震の影響、噴火の兆候ではなく台風15号による精進湖の増水と連動したものですし、富士風穴の氷筍は昨年から今年にかけて急に小さくなったわけではありません。たしかに20年前と比べると氷の量は減っていますが、それは温暖化に伴うものであり、赤池同様気象性の現象であると思います。
 こうした事例が「都合よく」紹介されているのがこの本ですね。震災前のずいぶん古い事例も引っ張ってきていて、その涙ぐましい(?)努力には恐れ入ります(笑)。
 しかし、こういう内容を、あまり知識のない方が読むと、本当に富士山の噴火が迫っているという恐怖感を抱くでしょう。地元の人でもそうです。ましてや地元に土地勘がない方は必要以上に心配なさるでしょうね。
 もちろん、富士山の噴火が近づいていることは確かです。将来100%噴火するわけですから、それは間違いありません。3.11や3.15の影響が大きいことも承知しています。しかし、ウソやこじつけはいけません。
 ちょっと次の文章を読み図を見てみてください。
 どうですか。これはこの本の冒頭部分からの抜粋です。国立大学の教授がこういうことを書けば、誰もが「富士山麓の忍野村で今までにない地震が頻発している。富士山自体が揺れ始めているのだ。これは噴火の兆候に違いない」と思うことでしょう。
 実際、そういう事例として紹介された文章です。
 しかし、この文章にはあまりに多くの「ウソ」があります。呆れるほどです。
 まず、「富士山北東麓はこれまでほとんど地震が起きない場所だった」という部分です。どこまでが北東麓と言うか問題ですけれども、次の1月28日の地震に触れていることからすると、道志方面もそのエリアに含めていると考えられます。なぜなら1月28日の地震は道志川断層帯を震源とする地震だったからです。ご存知の方も多いと思いますが、道志川断層帯は比較的活発な活断層です。こちらの記事に書いたとおり、10年から20年に一度M5の中規模地震が起きます。地元の人ならおなじみの地震です。
 今年の道志の地震を取り上げておいて、「ほとんど地震が起きない」はないでしょう。
 続いて「東日本大地震が起きてから急に地震活動が活発化している」という部分です。これはある意味結論的な大嘘なので最後に回します。
 次は「忍野村では、東日本大地震までの10年間、震度1以上の有感地震は一度も起きていなかった」という部分を検証しましょう。
 これもありえないウソですよ。たとえばこちらの甲府気象台発表の資料を御覧ください。2011年2月の月報です。この資料に2011年2月5日の千葉南方沖M5.2による山梨県下の震度一覧がありますが、ご覧のように震度2のところにしっかり「忍野村忍草」とあります。
 つまり、震災の前月にも震度2の地震を観測しているのです。
 いや、木村さんは、忍野村震源の地震のことを言っているのではないか、とおっしゃる読者もいるかもしれませんが、とんでもない。そここそこの文章のウソのツボです。それを確かめるために続く文を読んでみましょう。
 「それが、大地震後に一転。2011年5月に震度2を2回観測したあと、発生回数が急増している(図2)。2012年1月には前述の震度5弱を含め、7回の有感地震を観測した」
 これはひどいですね。たしかにここに示されている図は正しい。たしかに5月以降忍野村では図のような震度の地震を観測しています(ちなみに5月は震度2が3回です)。
 しかし、たとえばこちらの甲府気象台の5月の月報でも分かるとおり、これらの震源はほとんど全て「千葉」「茨城」「福島」などです。忍野村はもちろん、富士山北東麓も、山梨県もありません(たぶん。全部調べるのも馬鹿らしいので)。
 つまり、大地震の余震で忍野村が揺れたに過ぎず、これは忍野村に限らず東京でも全く同じ傾向があるわけですよね。それをまるで忍野村震源の地震が急増したかのように書いているわけです。
 これは詐欺ですよ。本を売るための詐欺とも言えますし、人心を乱す「風説の流布」にも当たりますでしょう。
 というわけで、結論的として後回しにした「東日本大地震が起きてから急に地震活動が活発化している」というのは、「忍野村(あるいは富士山北東麓、または富士山周辺)では」ではなく、「東日本では」ということなのです。
 あまりにひどいと思いませんか?こういうことを国立大学の教授が平気でやってのけるなんて。
 木村さんの業績には見るべき点も多々ありますし、この本自体にもウソではなく本当のこと、あるいは私も賛同できる予測もあります。しかし、ここで取り上げた1ページのみならず、他の部分にも「ウソ」や「こじつけ」があるのも事実です。
 読者の皆さんには、この本はそういう種類の本だということを知って読んでいただきたい。必要以上に恐れないでもらいたいということです。
 そして、情報はしっかり自分で得てほしい。自分で考えて自分で判断してほしい。こういう便利なネット時代になったんですから。エラい人の言葉を鵜呑みにしてると、またエラい目に合っちゃいますよ。
 こうしてツッコミを入れながら読めば、とても良いメディア・リテラシーの教材だと思います。特に富士山麓にお住まいの方にはおススメしておきます。

感動です!