相依りて 谿底の家 十ばかり 氷雨のままに 灯を點しけり
芽吹き初む 雑木林 ここに人知らぬ 山桜ありて 一本咲ける
瑞々しき 晨のあら草 にほひ来る 乙女と牛とに 径譲りたり
のびのびと ボール打ちあふに 見ほれたり 用もつわれを 暫く忘れ
夜なべ終へ おくられし膳に 思はざる これは鮎飯 隣くれたる
乳を盛る コップ曇れり 病みつぎて あしたの秋の 早き驚く
長時化の 雨あがりたり 行商の 今朝の自転車に 空気を張りつ
恃みし事 叶はず帰る 孤独さや 縁なき自動車の 埃に巻かるる
温泉の宿の 翁になじみ 幼な吾子 はや洩らせるか ちちははのこと
ととのはぬ 用件もちて 戻りかかる 街のはづれに 長き葬列
闘争を 辞せずと云ひ放つ 君の眼の ま澄める光 われ疑はず
母とまた 抗ひあへる 妻の愚痴 いらく聞きつつ 朝を出てゆく
放心の われの眼に 動かざる 遥か山河の 雲の一ひら
叛かれし 追憶も今は はるかにて 孫もつ齢の 君と対へり
明治、大正時代を生きた祖父・寛一。
若山牧水との写真が数枚あった。
「若山牧水_土肥温泉」
http://japan-mountfuji.blogspot.com/2010/12/blog-post_31.html